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2009年7月18日 レクチャーコンサート用資料

「世界のさまざまなノド歌」2部「古今東西の際立った声」資料 byウィリアム

0.際立った声色を使う民族/民俗音楽 世の中には、「一体どうやって出しているんだろう?」という声の技法が存在します。このレクチャーコンサートでは、そういった、古今東西の際立った「音色」を持つ声を、主に音楽の分野で扱います。ただし、ある特定の個人以外は誰も出来ない、もしくは(様々な理由により)継承されない、という特殊すぎる声は省きます。

また、巷には色々なジャンルの音楽がありますが、当コンサートでは、所謂「民族(民俗)音楽」の分野を取り上げます。が、私は「全ての音楽は民族音楽である」 と考えるので、一般的なイメージの「民族音楽」からは少し離れた例も紹介します。
1.発声法としては比較的普通だが、装飾音が独特な芸能
a.オルティンドー(モンゴル)

Amazing voice: Norovbanzad
http://www.youtube.com/watch?v=1Vr-QiYDHJk

b.タハリール(イランを中心とするペルシャ語圏)

Parisa premier Persian vocalist: Afshari with Center for Preservation artists
http://www.youtube.com/watch?v=b9CN_LFonnI

この2つの芸能は、喉を打つような独特の装飾技法を使います。筆者の聴感上、また経験上、この2つのテクニックは非常に似た技法だと考えます。ただし、文化的な関連性は不明です。両者の違いは、この技法を使う時の旋律の動きの違いです。前者は単旋律で、後者は、スキャットのように、旋律が動きます。

それぞれの習得過程ですが、
オルティンドーでは、「オーハエ」という小曲を、西洋声楽の発声練習(1度・3度・5度を連続的に歌い、半音ずつ上がる/下がる)のように、音を半音ずつ上げて歌い、限界まで上げてから、また限界まで下がります。「小」といえどもオルティンドーで使われる基本的な技巧が全て詰まった「曲」なので、「オーハエ」をやるだけで30分以上かかります。それだけオーハエが重要視されていることが分かりますし、また、装飾音以外にも、声量/声域の広さが特長のオルティンドーにおいては、どの音域でも安定して「オルティンドー的な音色」を出すこの練習が非常に役に立ちます。
「オーハエ」は3つのパートに分けられ、初めのうちは、それぞれのパートの歌い終わりに息継ぎを入れます。が、練習が進むと、息継ぎをせず3つのパートを一気に歌います。「オルティンドー=長い歌」と直訳される歌の由縁を感じるプロセスです。

夜鶯「ブルブル」の声、という意味の「タハリール」唱法は、少し前までは、才能が無いものには習わせない、つまり、天から才能を与えられた者だけの技法だったようですが、最近では、イランを代表する古典声楽家「シャジャリアン」が、「タハリールは誰でも出来る」と提唱したことにより、具体的な指導法 が確立されたようです。
タハリールにも種類がありますが、その分類は人によってマチマチようで、共通認識では無いようです。
(追記:昔から存在する分類があるようです)
この歌唱法の由来は、筆者の個人的な感覚では、ペルシャ語の、フランス語にも似た、喉の奥の方から発音する母音に関係があるように思います。そのためか、この歌唱法は、イランを中心とするペルシャ語文化圏以外ではあまり聞かれません。

c.Yoruk族の喉打ちthroat playing(トルコ)

Bogaz Havası - Throat Singing - Teke Yoruk Turks Song
http://www.youtube.com/watch?v=-OW0nBsf2HQ


トルコはアナトリア地方において、主に遊牧生活を行っているYoruk族で使われる技法。この技法は、指を使って、まさしく「喉を打ち」ます。指は人差し指、中指、親指を使います。
本来は、男性のみが吹くことを許された笛Kavalの音まねとして、若い結婚前の女性が、同じく若く未婚の男性によるKaval演奏への返答として使っていたそうですが、現在では、このテクニックを含む、Yorukの芸能自体が、生活様式の変化などにより、消えつつあるようです。


2.発声法が特殊な芸能

a.ヨーデル(アルプス地方、アメリカ、アルバニア、中央アフリカ、等)

Franzl Lang - Einen Jodler hör i gern
http://www.youtube.com/watch?v=67rc96joOz8

地声と裏声を連続的に行き来することにより、独特の音色を出すこのこの芸能は、アルプス地方やアメリカで盛んで、日本でもヨーデルを取り入れた楽曲がヒットしているので、ご存知の方も多いと思います。

アルプスの牧場
http://www.youtube.com/watch?v=7SwC-S2aR3M

ヨーロッパではアルプス地方のドイツ語圏を中心とし、アルバニアにも存在します。アメリカのヨーデルはヨーロッパからの移民からもたらされ、いわゆるカントリーミュージックの中に取り入れられました。

Crazy yodeling
http://www.youtube.com/watch?v=bDDEk2AMJAI

実は主に中央アフリカに住むピグミー族もヨーデル的な歌唱法を持っています。しかも、彼らはそれを合唱で、更には全員が違う旋律を歌うので、まるでアフリカの熱帯雨林の森の音模様を感じさせます。

Yelli - Baka women yodellers
http://www.youtube.com/watch?v=cATZe_jlc9g

連続的では無いにせよ、地声から裏声に移行する、準ヨーデル的な芸能はハワイ、そして日本にもあります。奄美民謡、新内節、能の小鼓の声、ホーハイ節などがそうです。

Gabby Pahinui & Peter Moon - Waikiki Hula
http://www.youtube.com/watch?v=RT4BA4WxnWE

朝崎郁恵「おぼくり~ええうみ」 ikue asazaki "obokuri~eeumi"
http://www.youtube.com/watch?v=Zlnr_msOiFg


柳家紫朝(新内節)のCD紹介ページで視聴できます
http://www.grass-shopper.com/cd/music/wagaku/LYS0402/A-LYS0402.html

noh FUNABENKEI
http://www.youtube.com/watch?v=QrAbPd1V-UM

ホーハイ節/仁木宏宗
http://www.youtube.com/watch?v=7xTXDHR6nwo

近年では、アメリカのジャズ/ポップス歌手のボビーマクファーリンが、スキャットとヨーデルを融合させた、驚異的な声の技法を聞かせます。

Bobby McFerrin - Drive (Live from Montreal)
http://www.youtube.com/watch?v=codmxk7uLv8

b. モンゴルの横笛リンべの音真似(モンゴル、中央アフリカ)

裏声を出しながら、舌を使うことによって、あたかも喉を打っているかのような音を出すこの技法、実はとある民族音楽のコンピレーションCDと、デメトリオ・ストラトスという1970~80年代に活躍したボイスパフォーマー以外で聞いた事がありません。

Demetrio Stratos - Flautofonie
http://www.youtube.com/watch?v=IZmaIdiS2uc

モンゴルの伝統芸能に詳しい方もこのリンベの音真似のことは知りませんでした。
類似すると思われるテクニックは、アフリカにも存在します。
余談ですが、「横笛の真似」とありますが、私には馬頭琴(場合によって中国の二胡)の真似のように聞こえて仕方がありません。皆さんはどう聞こえますか?

c.ホーメイ(アルタイ山脈周辺、チベット、南アフリカ、サルデニア、等)
トゥバのホーメイに関する詳しい資料は、1部用の資料をご参照ください(註:実際のレクチャーコンサートでは1部でホーメイに特化して説明しました)。

Tuva Throat Singers
http://www.youtube.com/watch?v=xw9hizi5heM

ここでは、ホーメイで使う二つの発声法(喉詰め発声、カルグラ発声 )に非常に類似した(筆者の聴感上、経験上においては同種と推定する)歌唱法を取り上げます。

カルグラ発声を使い、声に含まれる倍音をコントロールする「倍音唱法」を使うのはチベット声明(しょうみょう)と、南アフリカのXhosa族です。

チベット仏教はゲルク派のギュトーとギュメイの二つの寺院では、驚異的な低音による声明が行われてます。また、声明の途中で、特定の倍音を強調することでも知られてます(ギュトーの場合は第10倍音)。

Tantra of Gyuto: Sacred Rituals of Tibet [6/6]
http://www.youtube.com/watch?v=uxOZ6RsMd84

Xhosa族では、女性によるumngqokoloと呼ばれる伝統歌でこの歌唱法を使います。通常は合唱で歌われることが多いようです。ソロは比較的最近歌われるようになり、倍音をより強調します。その歌唱法により、一聴すると男性の声のようにも聞こえますが、歌ってみると女性のキーの高さなので、男性には歌いづらかったりします。

THEATRE: Molora
http://www.youtube.com/watch?v=OaLnLckySio

コンテンポラリーな倍音唱法としては、DavidHykesに代表されるスタイルがあり、

Harmonic Opening (Harmonic Chant / le Chant Harmonique by founder David Hykes
http://www.youtube.com/watch?v=X03ZJ6eLQzU

これらは地声で歌われ、やはり欧米ではいわゆるダミ声は受け入れがたいのかと思いきや、イタリアはサルデニア島にはダミ声を使う伝統的な4声コーラスが存在します。4人のうち、一人、二人ないしは3人が喉詰め発声やカルグラ発声を使っています。不思議なことに、ダミ声でも合唱になると、パイプオルガンのような心地よい不思議な響きになります。一説によると、バグパイプの代わりだったという話も。

Tenores di Bitti "Mialinu Pira" a Belluno 2
http://www.youtube.com/watch?v=mMddrMMqm00

このほかに、こういったダミ声を使う芸能としては、イヌイットの喉遊び、アラブの真珠取りが挙げられます。また似たような歌唱としては、ゴスペルにおける黒人のしわがれ声、ジャズにおけるサッチモの声真似なども挙げられるでしょう。

Aryaut & Aniksak
http://www.youtube.com/watch?v=_x86SiUS7oA

また、ダミ声というと、浪曲の広沢虎造に代表される、日本の芸能のみならず、アメ横の売り子の声でも聞かれる馴染みのある声ですが、上記の技法と違うのは、彼らはおそらく喉を潰してああいう声になっている点です。つまり技法としてあの声を出しているのではなく、声帯結節か何かを生じさせることによって、四六時中あの声になってしまっている 、という事です。

浪曲 国定忠治 名月赤城山(1/5)口演;先代広沢虎造
http://www.youtube.com/watch?v=NcKHVWlDMe0


3.特殊な声のコンテンポラリーな芸能
ここでは、所謂一般的な民族音楽のイメージとは違う、近年に生まれた芸能を取り上げます。特に前者二つはインターネットと結びつき、主に都市部の若い層を中心に、現在もどんどん発展していっているのが特徴的です。面白いのはいずれも、そのジャンルのスタイル/流儀から大きく離れる事はほとんど無い、という事です。

a.ヒューマン・ビート・ボックス
アメリカはブロンクスで生まれたヒップホップの声の芸能で、ドラムマシンやターンテーブルを買えない貧困層から生まれたと言われます。その名のとおり、ドラムマシンやターンテーブルのサンプリング音やスクラッチ音を口とマイクだけで再現します。マイクの特性を活かした(通常は聞こえない息の音もマイクは音として拾い、拡大する)現代的な声の芸能といえるでしょう。

Daichi for Beatbox Battle Wildcard
http://www.youtube.com/watch?v=8ZsML4uWoiw

b.ブルータルデスメタル
ヘビーメタルから派生したデスメタルから更に派生したジャンル。ガテラル(Guttural)や下水道ボイスと呼ばれる、気道を鳴らしているかのようなガラガラとしたノイズ混じりの非常に低い声を使います。元々デスメタルはデスボイスと言われるガラガラ声を使っていましたが、

ARCH ENEMY - Ravenous (OFFICIAL Live DVD Video)
http://www.youtube.com/watch?v=wMGpcjzb67Q

それを更に深化させたような声で、ほとんど歌詞が言えない/聞き取れない歌唱法です。

Waking the Cadaver @ Death Feast 08
http://www.youtube.com/watch?v=qNhiQdY5Cf0

面白いのは、この手のジャンルはどんどん細分化しており、外部からは何がなんだか分からない専門用語が多用されます。また、歌詞やイメージでは過激ながらも、楽器編成や楽曲で使われるフレーズなどは非常に保守的なのも非常に興味深い特徴です。

c.声ノイズ
私が提唱しているスタイルで、全く一般的ではありません。ノイズミュージックを、エフェクターなしで、声だけで表現します。上記で紹介した特殊なテクニックや、口腔内の普通は使われない箇所を、単独、または複合的に使います。

5min extract from 2nd live
http://www.youtube.com/watch?v=v2EuUtN8VzI

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